第壱話「7年振りの雪國で…」


 東北新幹線に揺られ約2時間、仙台駅を通り過ぎここからは各駅停車になる。後1時間位で目的地に着く筈だ。
 くりこま高原を過ぎた辺りからであろうか、外の景色が徐々に雪景色に変化して来た。
(7年振りだな、こんなに本格的な雪景色を見るのは…)
 私の名前は「相沢祐一(あいざわゆういち)」、かつてはシャア=アズナブルと呼ばれていた男である(大嘘)。この度両親が仕事上越す事になり、私は現在住んでいる家で一人暮らしをする事を望んだのだが、お前には無理だと見事に却下された。一人暮らしの野望、ここに玉砕ス。それでこれから訪れる街に住んでいる、親戚の家に居候する事になった。
(不思議なものだ、本能的には美しいと感じているのに、理性がそう感じるのを許さない。昔はこんな事無かったのにな…)
 美しい雪、幻想的な雪。そして街という街が雪に覆い隠された空間。まるで異世界にでも迷い込んだようである。
 幼少の頃の記憶を辿れば、一ノ関駅を経由した後幾重ものトンネルが重なり、それをくぐり抜けた先に目的の駅がある筈である。
(そろそろ目的地に着くな。さてと下車の準備をしておくか…)
 目的の駅に新幹線が止まる。重い荷物を持ち下車し、何気に東の方を見てみる。眼前に見えるは幾重にも重なる山々。その山脈群は確か北上高地と呼ぶ筈。
 東の北上高地、西の彼方に連なる奥羽山脈。この二つに囲まれ、その中心には大動脈のように北上川が流れる。この街は北緯39度8分線上に位置し、南部鉄器(と言ってもここはかつては伊達藩であるが…)が街の産業の基盤を成し、数々の偉人を生み出した街である。そして7年前、突然思い出が止まった地…。
「私は帰って来た!!(C・V大塚明夫)何てな…」
 さて、冗談はこの位にしておいて、そろそろホームに降りるとしよう。それにしても東の山々を眺めていると衝動的な悲愴感にかられる。恐らく私が7年間この街を訪れるのを拒んだのに関係しているのだろうな。
 階段を下り、改札を済ます。親戚の名雪(なゆき)の話だと西口の外にあるジャンボ鉄瓶で待ち合わせだったな。
 自動ドアをくぐり外に出る。右手に例のジャンボ鉄瓶が見える。
「それにしても寒いな…」
 外に出た途端、凍て付く雪風が私の肌を襲う。
 抜かった!!と私は思った。北の寒さを軽視し、帝都(注・東京の事)の冬と同程度の装備しかして来なかったのである。


 あれから2時間は経つだろうか。寒さは勢いを増し、確実に私の意識を奪い取る。昔「八甲田山」と言う映画を見て、帝國陸軍の事を散々罵っていたが、これでは人の事言えんな。
 嗚呼、八甲田山で命を落とした英霊の声が聞こえる…。私を迎えに来たのだな。これは永遠の世界で東条英機に頭を下げる羽目になるな…。東条閣下、申し訳ありません…。今後帝國陸軍を罵る行為などは決して致しませぬ…。
 徐々に大きくなる英霊の声。それにしても英霊の声にしては随分と可愛い声だな?
「ごめん、だいぶ待ったでしょ?」
 声の主、それは英霊の声ではなく、親戚の名雪であった。
「俺が誰だか分かるのか?」
「うんっ、分かるよ、祐一でしょ」
「7年振りだっていうのによく俺だって分かったな」
「分かるよ、どんなに年を重ねて雰囲気が変わったとしても…」
 私自身は、会うのが7年振りだという理由で送られてきた写真で、成長した名雪の容姿は確認済みである。よって目の前に立っているのが名雪だと即座に理解出来た。しかしこちらから私の成長した姿を写した写真は送らなかった。それなのによく本人だと分かったものだ。
「はいこれ、遅れたお詫び」
 そう言って名雪が取り出したのは缶コーヒーだった。
「7年振りの再会だっていうのに、遅れた詫びが缶コーヒー一本とはな。随分と貧相な詫びだな…」
 名雪は「ごめん」、と両手を合わしながら苦笑し、そして私に問いかけてきた。
「ねえ、私の名前覚えてる?」
 実は送られて来た写真には肝心の名雪自身の名前が記載されていなかった。この辺りが名雪らしいと言えば名雪らしいが…。まあ、名前自体は覚えていたが普通に答えるのは面白みに欠けるので、少しからかってみよう。
「アルテイシア…(C・V池田秀一)」
「違うよ〜」
「アムロ=レイ、ララァ=スン…(C・V池田秀一)」
「適当に色々答えないでよ〜。う〜…、それに何を言っているか全然理解出来ないよ〜」
 だろうな。このネタ、一般人には理解出来まい…。
「さてと、冗談はこの位にしておいて、行くか名雪!!」
 困惑顔だった名雪が微笑み出す。
「うんっ!!」

…第壱話完

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